大雪
Third Dish冬のぬくもり、食の営み。
冬のぬくもり、食の営み。
吐く息も白く、ピンと張り詰めた冬の澄んだ空気に背筋が伸びる思いがします。旬で季節の訪れを味わう京料理において、寒さが厳しくなるにつれて存在感を増してくるのが伝統的な京野菜たち。そのルーツを求めて、「THE HIRAMATSU 京都」の「割烹 いずみ」の料理長、若松 裕樹と一緒に日本で最も歴史のある京都市中央卸売市場へお邪魔してきました。京料理の伝統と長い時を経て紡がれてきた思いに触れ、若松はこの季節に体も心も暖まる一品を仕込んでいます。
農家の想いを支える
プロフェッショナル
季節によって味や色合いに違いが出る「京野菜」。「適地適作だからこそ感じることのできる旬があります。京都周辺の土地は肥沃で、昔からおいしい野菜がたくさん採れました」と、松本さんは話します。所狭しと並ぶ野菜たちの間を縫うように「せり人」と呼ばれるスタッフが移動し、仲卸業者さんたちが取り囲む様子は白熱そのもの。「市場へはよく行きますが、せりを生で見たのは初めて」と、寡黙な若松もいくぶん上気したように話します。騒然とした市場のなかを悠然と歩きながら「仲卸さんはお客さんのためにできるだけ安く仕入れたい、我々せり人はできるだけ農家さんの希望価格で売ってあげたい。こうして適正価格が決まっていくんです」と、松本さんは説明してくれます。
初代「京野菜マイスター」の松本さんが場内とせりを案内してくれた。
日本で最初に誕生した
中央卸売市場
「京都市中央卸売市場は1927年12月11日に日本で最初に作られた中央卸売市場です。1935年に開設された旧『築地市場』よりも古く、95年を超える歴史を誇ります。全国から集まる『遠地野菜』とは別に、京野菜や近江野菜などの『近郷野菜』だけを扱う卸売り場があり、近郷野菜を専門に取り扱う仲卸業者さんがおられるのが特徴です。私は農家で育ったものですから、野菜を自分で売ってみたいと思ってこの会社に入りました。農家さんの想いを知っているだけに、自分でせりを仕切っていたときはやはり熱が入りましたね。自然の環境で育った地場野菜は、季節を楽しむ京料理になくてはならない文化です。味はもちろん、見た目にもこだわっているのがいかにも京都の農家さんらしいと思います。真っ白な『聖護院だいこん』や中まで真っ赤な『金時にんじん』など、どの野菜も立派で綺麗でしょう!」
近郷野菜(京都府産・滋賀県産)専門の仲卸業者は品定めに余念がない。/広い場内に「せり人」の声がリズムよく響く。/いまどの商品がせりにでているか、竹の棒で示している。/初めて見るせりの迫力に、若松も興奮気味。
ひとさらの文脈
市場の朝は早く、まだ暗い空の下でキビキビと働く男たちの姿に目が覚める思いがします。京都府や滋賀県で採れる野菜を「近郷(きんごう)野菜」と呼び、専用の卸売り場で専任の仲卸業者さんが目利きをする。京都の食文化において、京野菜がとても大切にされているのを実感しました。「農家さんに作ってもらうには、しっかり売らなきゃいけない。そのためにはおいしく料理してもらって、お客様に喜んでもらって、京野菜の魅力を知ってもらうのが一番」と話す、松本さんのハスキーな声と優しい笑顔が印象的でした。
「水菜を使ったハリハリ鍋など、京野菜は鍋料理にもおすすめ」と聞き、さっそく自宅で鍋の具材に「金時にんじん」を使ってみたところ、鮮やかな赤色が実に食欲をそそりました。ホクホクと柔らかいのが気に入ったのか、1歳の娘もよく食べます。おばんざいから伝統料理まで、京料理の歴史と伝統を学ぶだけでなく、未来に繋げようとする熱い想いに触れる体験となりました。
読むひらまつ。編集部 飯田健太郎