小雪
Fifth Dish松の葉が舞う京の冬
松の葉が舞う京の冬
山の錦も散り、寒さが本格的になってくると恋しくなるのが蟹料理。湯気に包まれた真っ赤な身は、なんとも華やかな気分にさせてくれます。日本ではさまざまな種類の蟹が漁獲されていますが、味わいや大きさなどにそれぞれ特徴があります。とりわけ人気の「ずわい蟹」には各地の地方名があり、水揚げされた漁港によってブランドが分けられるなど、日本人の蟹への親しみとこだわりを感じさせます。今回は「THE HIRAMATSU 京都」の料理人と間人(たいざ)漁港にお邪魔して、蟹の水揚げから競りまで冬の熱い一日に迫りました。
幻のずわい蟹「間人ガニ」
「松葉蟹(雄)」や「香箱蟹(雌)」など、呼び方が変わるのも「ずわい蟹」の特徴で、松葉蟹にいたっては更に地域や漁港ごとにブランドが異なります。兵庫の津居山港で獲れる「津居山(ついやま)蟹」、島根県の隠岐諸島で獲れる「隠岐(おき)松葉蟹」、鳥取県では「鳥取松葉蟹」と呼ばれています。これらは各地で厳しい選別基準が設けられ、それぞれに色つきのタグを付けることでブランドとしての品質を保証しています。なかでも幻の蟹と呼ばれるのが、京都の丹後半島にある間人(たいざ)漁港で水揚げされる「間人ガニ」。その理由は漁場からの近さと港の規模による鮮度にあるようです。間人漁港は蟹の漁場まで30kmと最も近いため海上で停泊する必要がなく、獲れた蟹はその日に競りにかけられます。港もコンパクトで仲買人との距離も近いため、検品が終わった蟹はすぐに出荷されていきます。
筒井料理長と話す眞﨑料理長。互いに食材に対する興味は尽きない。/競りを待つ蟹は、漁師自らが船上で選別を行ったもの。/競り人による厳しいチェックが行われる。表情は真剣そのもの。/次々と出荷されていく間人ガニ。
新鮮な蟹を届けたい!
「THE HIRAMATSU 京都」のふたりの料理長、筒井 崇海 (つつい たかうみ)、眞﨑 将平(まさき しょうへい)と間人漁港へお邪魔して、5隻しか操業されない底曳網(そこびきあみ)漁船のひとつ、蓬莱丸(ほうらいまる)の船主、池田 実(いけだ みのる)さんにお話を伺いました。
「私は三代目で、もう40年近く漁師をしていますが、いまでも蟹漁が解禁される11月になると緊張してきますね。蟹は群れで動くのでうまくポイントに当たれば良いのですが、こればっかりは漁に出てみないとわからない。しかも近年は異常気象が続くので、これまで磨いてきた勘と経験だけが頼りです。それでも、漁場が近いという間人漁港のメリットを活かして、鮮度のいい蟹をお届けしたいと思います。全国で料理人が腕を奮ってくれ、お客さんが美味しいと喜んでくれたら嬉しいですね」
さらに、間人漁港で100年の歴史を持つ平七水産株式会社の取締役、吉田 雅(よしだ まさし)さんにもお話を伺いました。
「弊社は間人漁港で水揚げされた海産物を新鮮なままお客様にお届けする仲買人の会社です。間人ガニが幻の蟹と呼ばれるのは、抜群の鮮度にあります。海底300mからお客様のもとまで、最短でお届けできるのがこの小さな港の特徴ではないでしょうか。漁師さんが一生懸命獲ってきてくれた蟹をしっかり検品するのもわたしたちの仕事です。間人ブランドを守るため、身の詰まり具合やサイズ、キズや色、形の善し悪し、成長の度合いなどを丁寧に見極めます。準備が整ったら、“活き”は少しでも新鮮なうちに出荷します。茹で蟹は真水ですぐに締めて、大きな鍋で一気に茹で上げます。真っ赤な身体に巻き付けられた緑のタグは、この港で働くみんなの誇りですね」
池田さんはこの道40年のベテラン。「茹で蟹が一番」と笑顔を見せる。/競り前の忙しい合間を縫って取材に応じてくれた吉田さん。/粛々と競りの準備がすすめられ、緊張感が高まる。/緑のタグの表には「京都」、裏には「たいざガニ」と「船名」が刻まれている。
ひとさらの文脈
<取材協力>
京都府農林水産部水産課、京丹後市農林水産部海業水産課、京都府漁協丹後支所
「割烹いずみ」で松葉ガニのコースを堪能する冬の宿泊プランはこちら。
※料理長厳選の松葉ガニを仕入れます。天候により仕入れができない場合がございます。
※2025年2月28日まで
読むひらまつ。編集部 飯田健太郎