京の食を編む 大暑
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Sixth Dish鮎が届ける美山の涼

鮎が届ける美山の涼

梅雨が明け、夏本番を迎える京都。うだるような暑い日が続くと少しでも涼を求めてしまいます。そんな夏バテ寸前でもつい食指が動いてしまうのが鮎。清流を涼しげに泳ぐ姿を想像するだけで、なんとも食欲をそそります。独特の西瓜のような香りを味わえることから「香魚」とも呼ばれ、食べるのはもちろん釣りでもファンの多い魚です。京都からほど近い由良川の上流域にあたる「美山川」では、“清流の女王”をもとめて多くの釣り人で賑わいます。
芦生(あしう)の森を源に育った鮎は臭みもなく、シンプルに頂くのが美味。今回は「THE HIRAMATSU 京都」の料理人たちとともに清流を遡上し、鮎について取材してきました。

暑い夏には鮎がいい

梅雨が明け、夏が近づいてくると、京都では祇園祭に鴨川の納涼床、五山の送り火などの風物詩が街を賑やかに彩ります。食では賀茂なすや万願寺甘とうなどの京野菜に加え、鱧や鮎が涼をもたらします。鮎は日本全国に生息している川魚で、清流を好み、川底の岩についた苔を主食とする魚です。海から遠い京都では川で獲れる新鮮な鮎が好まれ、「塩焼き」を筆頭に「背ごし(刺身)」や「天ぷら」、「鮎飯」などの料理が発達しました。春の稚鮎に始まり、秋の落ち鮎まで季節ごとの旬を楽しめます。やがて彼岸になると川で産卵し、1年という短い一生を終えます。孵化した鮎は海へ下って冬を越し、また春になると川を遡ってくるのです。鮎のように一時的に海で暮らし、春になると河川を遡上し秋に川を下る習性を「両側回遊(りょうそくかいゆう)」といいますが、いまでは堰が設置されている川も多く、海から川に遡上してきた稚鮎を採捕して上流に放すことも増えました。

暑い夏には鮎がいい
暑い夏には鮎がいい
暑い夏には鮎がいい
暑い夏には鮎がいい
由良川の上流域にあたる「美山川」。
虫を食べるヤマメやイワナと違い、鮎は苔を食べる。
天然の鮎は美しく、そして力強い。
日本ではおとり鮎を使った友釣りが一般的。

鮎は岩を見て釣る

5月から6月になると各地の川で鮎釣りが解禁され、全国からファンが訪れます。そのひとつが「芦生の森」を源流とする美山川。日本の原風景に心が洗われます。昆虫や動植物などの生態が豊富な天然林から流れる清流は養分も豊富で、川底の岩には良質な苔が育ちます。美山川の鮎は全国の鮎の品評会「清流めぐり利き鮎会」で、通算7回の準グランプリを受賞するという実績。美山漁業協同組合の代表理事組合長を務める小中 昭(こなか あきら)さんにお話を伺いました。

「漁業協同組合として、昭和39年に京都府から免許を受けて以来、魚種の保護や種苗放流などの増殖に努め、今年は10cmほどの稚鮎を3トン放流しました。6月頃には綺麗な若鮎に育ち、7月頃には20cm位になってきます。良い縄張りを持っている鮎だと“尺鮎”といって30cm位まで成長するので、刺身で食べるのも美味しいですよ。子供の頃から美山の川で釣りをして育ちましたが、近年の異常気象や環境の変化など、さまざまな原因から魚が減ってきているのです。ゴミ拾いや草刈りはもちろん、天然魚の回復や保護を目指して河川環境の保全に取り組んでいます。まず森を綺麗にしなければ川は綺麗になりませんから、山へ入って手入れをしていかなければいけません。最近はルアーフィッシングのニーズも高いので、今後は友釣りとルアーを分けて両方楽しめるようにしたいと思います。料理人のみなさんにも鮎釣りの楽しさと美山の鮎の美味しさを知ってほしいですね」

鮎は岩を見て釣る

鮎は岩を見て釣る

鮎は岩を見て釣る

鮎は岩を見て釣る

豊かな森と冷たい川の水が心地よい。/鯖街道ならぬ“鮎街道”。全国から鮎釣りファンが訪れる。/高知県で開催される鮎の品評会では姿・形・味・香りが評価される。/「子供のころからここで釣りをしていた」と小中さん。2時間半で18匹釣ることも。

食べる喜び、釣る楽しみ

さっそく「THE HIRAMATSU 京都」の料理人たちも鮎釣りに挑戦します。「割烹 いずみ」の料理長、眞﨑 将平(まさき しょうへい)は「鮎釣り自体は初めてなのでワクワクする」と興奮気味。一方、「釣りは子供の頃以来」という「リストランテ ラ・ルーチェ」の料理長、筒井 崇海(つつい たかうみ)も「渓流釣りは初めてなので、どんな場所で鮎が育っているのか体験できるのが楽しみ」と、目を輝かせます。今回特別に指導して頂いたのは“おとり屋(※)”さんの井爪 孝志(いづめ たかし)さんと西野 昭一(にしの しょういち)さんのお二人。友釣りで最初に用意するおとりの鮎から釣り方まで、丁寧に教えて頂きました。

群れで暮らす鮎には縄張りを持つ鮎がいて、侵入者を攻撃する習性を活かして“友釣り”と呼ばれる仕掛けで釣りあげます。「藻類が良く育つ大きな石を縄張りにして苔を剥がすように食べているので、活性の良い鮎がいるあたりの岩はツルツルと磨かれたような輝きを放ちます。わたしたちは鮎ではなく“岩を見て釣れ”と教えられてきました」と、西野さんは教えてくれます。美山の鮎は難しいと言われていますが、釣り場の範囲やスポットも豊富なので、シーズンを通して楽しめる場所。「7月の下旬は“土用隠れ”といって、雨が減って水温が上がり、魚の活性が落ちる時期。スポット選びが重要」とは、井爪さん。適切な指導のおかげもあり、眞﨑も筒井も無事に釣果を上げることができ、「チャンスがあったらゆっくり釣りに来たい!」と、生きたままの鮎を急いでホテルへ持ち帰ります。
※おとり屋:友釣りの「おとり鮎」を販売するお店

食べる喜び、釣る楽しみ

食べる喜び、釣る楽しみ

食べる喜び、釣る楽しみ

食べる喜び、釣る楽しみ

「筋が良い」と太鼓判を押された筒井料理長。ナイスキャッチ!/初めて釣った鮎に笑顔がこぼれる眞﨑料理長。/清らかな渓流で真剣に竿を振り続ける。/鮎釣りの魅力を教えてくれた西野さん(左)と井爪さん(右)。

ホテルに到着してもまだ活きの良い鮎たち。ホテルに到着してもまだ活きの良い鮎たち。
特注の焼き台でじっくりと火を入れていく。特注の焼き台でじっくりと火を入れていく。
竹と笹の盛り込みが実に涼しげだ。竹と笹の盛り込みが実に涼しげだ。
竹の下には炭を仕込み、香ばしい香りの演出。竹の下には炭を仕込み、香ばしい香りの演出。
  • ホテルについてもまだ活きの良い鮎たち。
  • 特注の焼き台でじっくりと火を入れていく。
  • 竹と笹の盛り込みが実に涼しげだ。
  • 竹の下には炭を仕込み、香ばしい香りの演出。

美山鮎の塩焼きby 割烹 いずみ

さっそく調理にかかる眞﨑が仕込む一皿は「鮎の塩焼き」です。シンプルな料理だからこそ、串打ちから焼き方まで日本料理の奥深い技を堪能できます。「美しく、美味しい塩焼き料理を出したくて、特注の焼き台をお願いしました」と話すように、焼き上がった鮎の美しさは見事。尾ひれを焦がさないように焼き台に団扇で風を送り続けることで熱を泳がせ、固い頭までしっかりと火を入れて、最後はパリッと全体を炙る。お腹を下にする「京打ち」と呼ばれる串打ちで、その盛り付けはまるで川の中を泳いでいるようです。しっかりと塩を振った身はほろほろと柔らかく、炭の香ばしさが食欲をそそります。脂の優しい甘さにわたの爽やかな香りと苦みがじんわりと効いて、汗をかいた身体に滋養が染み入ります。「天然物の鮎は使ってきましたが、釣れたときの鮎の力強さにはビックリしました。命をいただくありがたみを実感します」と眞﨑。秋には鮎で出汁をとった鮎ご飯や、冬から春先には氷魚(ひうお)と呼ばれる鮎の稚魚を釜揚げにして出すとのことで、時期によって変わる鮎の魅力を引き出します。

トマトのジュレにハーブやエディブルフラワーが華やか。トマトのジュレにハーブやエディブルフラワーが華やか。
器と盛り付けの相性も抜群で、シンプルながら美しい。器と盛り付けの相性も抜群で、シンプルながら美しい。
このひと皿は、新しい鮎の魅力に触れる食体験だ。このひと皿は、新しい鮎の魅力に触れる食体験だ。
鮎にくり抜いた胡瓜など、遊び心が心憎い。鮎にくり抜いた胡瓜など、遊び心が心憎い。
  • トマトのジュレにハーブやエディブルフラワーが華やか。
  • 器と盛り付けの相性も抜群で、シンプルながら美しい。
  • このひと皿は、新しい鮎の魅力に触れる食体験だ。
  • 鮎にくり抜いた胡瓜など、遊び心が心憎い。

鮎のコンフィ
三輪素麺のクルスティアン
by リストランテ ラ・ルーチェ

そして、筒井のひと皿は眞﨑の塩焼きにインスピレーションを受けた「鮎のコンフィ 三輪素麺のクルスティアン」です。「塩焼きという究極にシンプルな料理なのに、味や食感を見事に操る眞﨑料理長の技に感動した」と話す筒井は、イタリアンの発想で鮎の旨味を巧に引き立てています。鮎は塩を馴染ませてからニンニク、タイム、ローズマリーなどのハーブとともに95℃の油で5時間ほど煮込みます。さらに、パリパリとした皮の食感を奈良県特産品の三輪素麺で表現。すましバターの香りと大和ルージュの甘味が絶妙で、トマトのジュレが溶け出すと、酸味がまた鮎の旨味を引き立てます。「これはコースの冷たい前菜として出そうと思うのですが、いかに軽やかに、涼やかに仕立てるか考えました。海の魚には出せない魅力があり、現地へ行くとなおさら食材にできるだけ余計な手を加えたくないと思うのです。シンプルに、奥深く、夏のひとときを楽しめるひと皿を目指しました」と、自信をのぞかせます。コーンやハーブの食感が楽しく、鮎の新しい魅力を堪能できるひと皿でした。

ひとさらの文脈

ひとさらの文脈

記録的な猛暑日を記録した京都。それでも、美山川の冷たく清らかな水に足を浸すと涼しく感じることができました。京都市は海から遠いこともあり、夏になると生命力の強い鱧か近くの川で採れる新鮮な川魚料理が美味しく調理されたというのも頷けます。かの魯山人も好んだという京都の鮎ですが、いかにも夏の京都らしい雅な涼しさを感じました。とくに、生きた鮎の力強さと美しさは強く印象に残り、料理人たちも青く澄んだ空の下、自然の中のひとときを楽しんだようです。ちなみに友釣りという釣法は日本独自の技だそうで、鮎の習性をうまく利用した昔の人の知恵には驚かされます。まだまだ暑さが続く夏の京都。しばらく先人たちの知恵を借りて、賢く涼を頂くのが正解かもしれません。

取材協力:京都府農林水産部水産課/美山漁業協同組合
読むひらまつ。編集部 飯田健太郎

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〜京の食を編む〜

その土地の生産者と交わり、風土を理解し、食材に向き合うことで一皿の魅力を最大限に引き出すひらまつの料理人たち。なかでも京都は多彩な料理人の腕を堪能できる場所です。

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