大暑
Sixth Dish鮎が届ける美山の涼
鮎が届ける美山の涼
梅雨が明け、夏本番を迎える京都。うだるような暑い日が続くと少しでも涼を求めてしまいます。そんな夏バテ寸前でもつい食指が動いてしまうのが鮎。清流を涼しげに泳ぐ姿を想像するだけで、なんとも食欲をそそります。独特の西瓜のような香りを味わえることから「香魚」とも呼ばれ、食べるのはもちろん釣りでもファンの多い魚です。京都からほど近い由良川の上流域にあたる「美山川」では、“清流の女王”をもとめて多くの釣り人で賑わいます。
芦生(あしう)の森を源に育った鮎は臭みもなく、シンプルに頂くのが美味。今回は「THE HIRAMATSU 京都」の料理人たちとともに清流を遡上し、鮎について取材してきました。
鮎は岩を見て釣る
5月から6月になると各地の川で鮎釣りが解禁され、全国からファンが訪れます。そのひとつが「芦生の森」を源流とする美山川。日本の原風景に心が洗われます。昆虫や動植物などの生態が豊富な天然林から流れる清流は養分も豊富で、川底の岩には良質な苔が育ちます。美山川の鮎は全国の鮎の品評会「清流めぐり利き鮎会」で、通算7回の準グランプリを受賞するという実績。美山漁業協同組合の代表理事組合長を務める小中 昭(こなか あきら)さんにお話を伺いました。
「漁業協同組合として、昭和39年に京都府から免許を受けて以来、魚種の保護や種苗放流などの増殖に努め、今年は10cmほどの稚鮎を3トン放流しました。6月頃には綺麗な若鮎に育ち、7月頃には20cm位になってきます。良い縄張りを持っている鮎だと“尺鮎”といって30cm位まで成長するので、刺身で食べるのも美味しいですよ。子供の頃から美山の川で釣りをして育ちましたが、近年の異常気象や環境の変化など、さまざまな原因から魚が減ってきているのです。ゴミ拾いや草刈りはもちろん、天然魚の回復や保護を目指して河川環境の保全に取り組んでいます。まず森を綺麗にしなければ川は綺麗になりませんから、山へ入って手入れをしていかなければいけません。最近はルアーフィッシングのニーズも高いので、今後は友釣りとルアーを分けて両方楽しめるようにしたいと思います。料理人のみなさんにも鮎釣りの楽しさと美山の鮎の美味しさを知ってほしいですね」
豊かな森と冷たい川の水が心地よい。/鯖街道ならぬ“鮎街道”。全国から鮎釣りファンが訪れる。/高知県で開催される鮎の品評会では姿・形・味・香りが評価される。/「子供のころからここで釣りをしていた」と小中さん。2時間半で18匹釣ることも。
食べる喜び、釣る楽しみ
さっそく「THE HIRAMATSU 京都」の料理人たちも鮎釣りに挑戦します。「割烹 いずみ」の料理長、眞﨑 将平(まさき しょうへい)は「鮎釣り自体は初めてなのでワクワクする」と興奮気味。一方、「釣りは子供の頃以来」という「リストランテ ラ・ルーチェ」の料理長、筒井 崇海(つつい たかうみ)も「渓流釣りは初めてなので、どんな場所で鮎が育っているのか体験できるのが楽しみ」と、目を輝かせます。今回特別に指導して頂いたのは“おとり屋(※)”さんの井爪 孝志(いづめ たかし)さんと西野 昭一(にしの しょういち)さんのお二人。友釣りで最初に用意するおとりの鮎から釣り方まで、丁寧に教えて頂きました。
群れで暮らす鮎には縄張りを持つ鮎がいて、侵入者を攻撃する習性を活かして“友釣り”と呼ばれる仕掛けで釣りあげます。「藻類が良く育つ大きな石を縄張りにして苔を剥がすように食べているので、活性の良い鮎がいるあたりの岩はツルツルと磨かれたような輝きを放ちます。わたしたちは鮎ではなく“岩を見て釣れ”と教えられてきました」と、西野さんは教えてくれます。美山の鮎は難しいと言われていますが、釣り場の範囲やスポットも豊富なので、シーズンを通して楽しめる場所。「7月の下旬は“土用隠れ”といって、雨が減って水温が上がり、魚の活性が落ちる時期。スポット選びが重要」とは、井爪さん。適切な指導のおかげもあり、眞﨑も筒井も無事に釣果を上げることができ、「チャンスがあったらゆっくり釣りに来たい!」と、生きたままの鮎を急いでホテルへ持ち帰ります。
※おとり屋:友釣りの「おとり鮎」を販売するお店
「筋が良い」と太鼓判を押された筒井料理長。ナイスキャッチ!/初めて釣った鮎に笑顔がこぼれる眞﨑料理長。/清らかな渓流で真剣に竿を振り続ける。/鮎釣りの魅力を教えてくれた西野さん(左)と井爪さん(右)。
ひとさらの文脈
記録的な猛暑日を記録した京都。それでも、美山川の冷たく清らかな水に足を浸すと涼しく感じることができました。京都市は海から遠いこともあり、夏になると生命力の強い鱧か近くの川で採れる新鮮な川魚料理が美味しく調理されたというのも頷けます。かの魯山人も好んだという京都の鮎ですが、いかにも夏の京都らしい雅な涼しさを感じました。とくに、生きた鮎の力強さと美しさは強く印象に残り、料理人たちも青く澄んだ空の下、自然の中のひとときを楽しんだようです。ちなみに友釣りという釣法は日本独自の技だそうで、鮎の習性をうまく利用した昔の人の知恵には驚かされます。まだまだ暑さが続く夏の京都。しばらく先人たちの知恵を借りて、賢く涼を頂くのが正解かもしれません。
取材協力:京都府農林水産部水産課/美山漁業協同組合
読むひらまつ。編集部 飯田健太郎